2015年に設立された日本NP学会が,このたび学術雑誌としてめでたく日本NP学会誌vol.1 no.1 2017を刊行することとなりました.表紙右上にあるようにISSN(国際標準遂次刊行物番号)2432-0218という番号で国立国会図書館の蔵書としても広く公開される正式な学術雑誌となっております.
特定行為研修という厚生労働省の政策もあり,日本においても看護師の役割の拡大が議論されつつあります.その中で,日本NP学会員の多くを占める特定行為研修を含めた診療看護師(NP)が,安全安心な医療をしっかりと現場で提供していることを示していく必要があります.そのためにはこの日本NP学会誌で活動を広く発信していくことが大切になってきます.
今回の日本NP学会誌創刊号刊行にあたって多くの投稿をいただき,厳しい査読を経た原著論文1編,報告2編,短報2編を掲載することができました.日本学術会議で日本NP学会が正式な学会として認定されるためには最低3年間の学会誌発行が必須要件となりますので,今後は少なくとも年2回,3月と9月の刊行を行っていく予定です.また,現在は日本NP学会ホームページ上でのみの公開ですが,今後その他の学会誌との連携をとりながら,広く検索可能となるよう発展させていく予定です.
この日本NP学会誌が多くの日本NP学会員の活動報告の場となるよう,編集委員としてお手伝いしていきたいと考えております.多くの投稿をお待ちしております.
編集委員長 栗田 康生(国際医療福祉大学大学院准教授)
編集委員 岩本 郁子(東京医療保健大学大学院准教授)
高田 美由紀(JCHO千葉病院診療看護師)
井手上 龍児(JCHO東京城東病院診療看護師)
Ⅰ.はじめに
大分県立看護科学大学大学院修士課程において,平成
20年に日本で最初のNPの教育が開始されてから9年が
経った.業務・裁量権の拡大を目指した看護師の人材育
成のスタートであった.法令規定がなく,先の見えない
状況下で,教育からスタートさせるという前例のない挑
戦に伴う社会的な責任の重い決断には,かなりの勇気が
必要であった.
大学院教育の開始に先立ち,大学内に教員12名から
なるプロジェクトチームを作り,プロジェクトチームの
教員全員が,アメリカ,韓国で1ヶ月の研修を通して,
「日本におけるNPの活動の可能性」について学んでく
ることにした.その結果,研修を経験した教員全員が,
「日本においてもNPの制度を取り入れる必要があり,
今まさにその時期である」との意見に一致した.文部科
学省の中教審の答申(平成13年)の中に,大学院修士
課程の教育目標の一つに,「高度の実践者の育成」が掲
げられたことも教育を開始する決断を加速する要因の一
つになった.
新たな取り組みに対しては,支持的な組織・団体(日
本外科学会からはスタートの段階から力強い支援・強力
をいただいてきた)が存在すると同時に,反対する組
織・団体があることは当然なことであり,教育を開始し
た時点から始まった反対に対しては,「あせらず」「あき
らめず」「あまえず」真摯な態度で説明していくことが,
理解を得る上で不可欠なこととの姿勢で臨んできた.
教育のスタートからの10年目を目前に控えた今,困
難に立ち向かうときには,「初心に返ること」「過去に学
ぶこと」の姿勢が必要であると思い立ち,本稿では,日
本NP教育大学院協議会の10年間の歩みを振り返り,
過去の情報を,みなさまと共有しておきたいとの気持ち
から筆をとらせていただいた.
【目的】
近年,人工呼吸誘発性横隔膜機能不全が注目され,人工呼吸器管理,特に調節換気モード(以下ACモード)
下での管理開始から48時間以内には,横隔膜厚(以下tdi)の減少が起こることがわかっている.しかし,自発
呼吸モード(以下Spontモード)での呼気終末tdiの変化をみた文献は少なく,経時的な呼気終末tdi測定を行う
ことで,人工呼吸器装着による影響を評価し,ACモードとSpontモードでの呼気終末tdiの推移に差はあるの
かを検討した.
【対象と方法】
新たに気管挿管し,人工呼吸器を装着した患者を対象とし,超音波を使用してtdiを測定した.測定時の体位
は仰臥位とし,プローベは右中腋窩腺上の第8~10肋間に配置し,0.1mmまでの単位で測定した.
【結果】
同一患者における呼気終末tdiのACモードでの変化(-0.4±0.7mm)と,その後のSpontモードでの変化
(0.6±0.5mm)を比較した結果,統計学的に有意な変化は認めなかった(1.0±0.4mm,p=.088).長期的な人
工呼吸器装着の影響を検討するために,抜管直前の呼気終末tdiについて重回帰分析を行った結果,抜管直前の呼
気終末tdi減少の要因としては,特にSpontモード時間の増加が有意に関与していた(B:-.003 β:-.609 p
=.040).
【結論】
ACモードからSpontモードへ切り替えた場合,ACモード下での横隔膜厚の減少分が改善する可能性がある.
しかし,Spontモードによる人工呼吸器管理の長期化は,横隔膜厚の減少へとつながる可能性が高い.
Key Words:人工呼吸器,横隔膜厚,人工呼吸器による横隔膜機能不全
Ⅰ.緒 言
病院内では予期せぬ心肺停止が起こることも少なくな
い.院内での心肺停止に対し,より早い救命処置を目指
すためには,医師や看護師が救命処置に熟知し,少ない
人員の中で最大限に協力しあう必要がある.しかし,当
院の心肺蘇生は各医療職の経験に基づき,医師によって
も蘇生法が異なるため,現場でチームワークを発揮する
のが困難であった.
2013年4月に診療看護師としての活動を始めてまも
なく,患者の急変場面に続けて遭遇した.その際,医師
も看護師も含め,ガイドラインを把握しているのはごく
少数のスタッフのみで,心肺蘇生能力もチームワーク能
力も想像以上に低いことを痛感させられた.
実際の患者の急変場面において,発見者が何をすべき
か,応援者とどう行動すべきかをより多くのスタッフが
理解し,科学的根拠に基づく標準化した心肺蘇生を目指
して,2013年に心肺蘇生マニュアルを作成した.また,
心肺蘇生教育として,同年より二次救命(Advanced
Life Support:以下ALS)研修,2014年より実際の病
室を利用した急変対応シミュレーションを実施してい
る.
心肺蘇生教育開始から3年が経過し,様々な観点から
心肺蘇生教育の評価を行ったので報告する.
2014年修了生が藤田保健衛生大学病院で研修を開始して2年目に至る.2年目(2015年度)は,心臓血管外
科を4ヶ月ローテートし,病棟業務の一つとして術前管理に携わった.心臓血管外科の術前管理に診療看護師
(NP)が介入する有用性を考察する.
術前管理のNPの役割は,術前検査,術前中止薬,次回外来予約,透析の有無を確認し,これらをカルテ記載
する.必要があれば未実施検査を代行入力し,入院カンファレンスまでに調整する.入院カンファレンスで入院
日を決定し,患者連絡をして入院日の調整,中止薬など注意事項の説明をすることである.NP介入前は,これ
らの業務を担当医が行っていた.それにより入院日に未実施検査が判明し至急で検査予定を組むことや,中止薬
が中止されておらず手術日が延期することがあった.
筆者がローテーション中に関わった入院は36件で,入院前に7件の未実施検査(血液ガスを除く)があった.
実施漏れの検査入力は,医師に報告し,NPが代行入力をした.また,心臓血管外科では,緊急手術により予定
手術患者の入院日が突然変更になる場合もある.筆者は5件経験し,すべてNPが患者への電話連絡を行い,調
整し承諾を得た.
心臓血管外科の患者は術前検査や中止薬が多く,患者の不安も強い.術前管理にNPが関わることで,より専
門的に患者説明でき,医師単独よりも迅速に対応することができる.心臓血管外科の術前管理にNPが関わるこ
とは有用である.
Key Words: 診療看護師,心臓血管外科,術前管理,チーム医療
Ⅰ.はじめに
NPとして大学院を終了後,それぞれの所属機関で勤
務を開始することとなるが,卒後研修を位置づけている
施設もあれば,そうでない施設もあり,いきなり特定行
為を含む業務を行う場合もあれば,NPとして,又は特
定行為研修を終えた看護師としてではなく一看護師とし
ての業務を要求される場合もある.同じ施設に数名の
NPがいて,互いに情報交換ができる場合もあるが,多
くの施設では,ただ一人のNPとして活動することとな
る.それぞれのNPが活動する地域の中で情報交換がで
き,一緒に学べる場所が望まれた.
日本NP大学院協議会が独自に規定する日本型Nurse
practitioner (NP)の資格認定試験も,2016年度で7
回目を予定している.その間に,日本型NPの法制化は
特定行為という形で一部制限付きで実現した1).特定行
為という一部の医行為に関しては,規定された研修を受
けることで,大学院教育を受けていない者でも国内での
NP教育を受けた者と同様に法律上は一律に扱われてい
る1).日本型NPが法制化することは,長きに渡る議論
があったとはいえ医師法の過去を振り返ると,看護師が
診断や治療を行うという事はあまりに飛躍しているよう
に映ったのだと感じている.NP資格認定試験合格者の
多くが,臨床での看護師と医師の思考過程の違いに戸惑
い,絶対的に知識が不足していると感じたのではないだ
ろうか.
我々はあくまでも,一部の医行為にフォーカスを当て
た「特定行為」ではなく自立した看護師であるNPの法
制化を目指し,その結果医療への貢献を行う事が目的で
ある.そのためには,我々NPの有用性の証明に足る根
拠を提示する必要性がある.